「乳がん・子宮頸がん検診」を受けてほしい理由 23歳で子宮頸がんを経験した阿南 里恵里恵さんと語る

※本インタビューは2017年12月公開時点の情報です。制度の名称、内容も当時のものとなっています。

まさか23歳でがんになるなんて

堀内 保健師堀内

どのような経緯でがんが発覚したのでしょうか?

阿南 里恵 阿南里恵

23歳になったばかりの秋に突然、不正出血が起こりました。最初は「生理不順かな?」と思いましたが、1カ月も続くので婦人科を受診したら、かなり進行した子宮頸がんだと診断されてしまったんです。当時は東京で働いていましたが、医師から実家がある大阪で治療することを薦められ、大阪のがんの専門病院で1カ月に渡って検査を受けました。その結果、「がんが大きすぎるので、抗がん剤で小さくしてから子宮を全摘出する」という方針になったんです。

浅野 保健師浅野

がん告知のショックの中での治療は、精神的にも身体的にもかなりのご負担だったと思います。

阿南 里恵 阿南里恵

抗がん剤治療をしても手術ができる小ささになるという確証はなく、先が見えない不安の中で抗がん剤治療に入りました。
抗がん剤の副作用は生まれてはじめてのつらさで、吐き気と微熱でぜんぜんベッドから起き上がれなくなって。オシャレが大好きで髪のセットに30分かかるような年頃だったので、副作用で髪が抜けるのも恐怖でした。

生きるために子宮全摘出を決意【Web限定】

阿南 里恵 阿南里恵

手術のために抗がん剤治療をがんばりましたが、いざ手術日が近づくと急に恐怖が押し寄せてきて、手術の前日に大阪から新幹線に飛び乗って東京のアパートにこもって1人で泣き続けました。「なんでこんな目にあうの」「子宮を失うと人生が変わってしまう」「生きていく価値があるのか」とさまざまな思いがあふれていたところに、母からメールで「子宮を失っても生きていく道がある。とにかく生きなさい」と背中を押されて、ようやく手術への迷いが吹っ切れました。手術では、かなり進行していたので、子宮だけではなく、子宮を支える靭帯、リンパ節、見えるところはすべて取りました。見えない部位に手術で取りきれないがんが残っている可能性があるので、放射線治療も受けたのですが、副作用の下痢と便秘にかなり悩まされました。

中村 保健師中村

阿南さんは、子宮全摘出の手術のときに卵巣は温存する選択をされたそうですね。

阿南 里恵 阿南里恵

そうです。手術のときに、主治医が「まだ若いから卵巣を残すか家族とよく相談してください」と提案してくださって、卵巣を残しました。子宮を摘出しても卵巣を残すことができれば、女性の健康を司る卵巣機能を温存できることになります。

堀内 保健師堀内

がん患者の妊よう性(妊娠する力)について今ほど注目されていなかった10年前の時点で、卵巣を残す選択肢を伝えてくれた医師の提案はすばらしいと感じます。

阿南 里恵 阿南里恵

そうなんです。私の主治医は日本がん生殖医療学会という、がん治療による不妊の防止や妊よう性温存治療を推進している学会の副理事長でした。だから、妊よう性を残す治療法の提案もしてくれたのだと思います。一方で、多くのがん専門医は、妊娠・出産のことはあまり詳しくないのも現状だと感じています。妊よう性について詳しいがん専門医の数が、もっと増えて欲しいと思っています。

堀内 保健師堀内

阿南さんは、子宮頸がん検診を毎年受けていたのでしょうか?

阿南 里恵 阿南里恵

最初の就職先は大手自動車メーカーで検診制度も充実していて、職場の先輩にすすめられてがん検診を受けました。その半年後に、ちょうど転職した直後のタイミングで不正出血があってがんと診断されました。私の場合は特殊な事例で、通常の子宮頸がんよりかなり速いスピードで進行してしまうタイプで検診での発見が難しかったんです。

堀内 保健師堀内

半年でそんなに進行してしまったんですね。

阿南 里恵 阿南里恵

子宮頸がんになる方のうち2~3割は、私のように普通の子宮頸がん検診では見つからないタイプだそうです。ただし、逆に言えば7割程度の人は検診でがんを発見することができるので、必ず受診してください。

子宮頸がん検診をもっと受けて欲しい

浅野 保健師浅野

阿南さんが、「意外と知られていない」と感じるがんの知識は何ですか?

阿南 里恵 阿南里恵

「検診で何をやるかわからなくて怖い」という声はよく聞きます。実際に受けてみると「思ったよりすぐ終わった」「痛くなかった」という感想を持つ方が多いのですが。

堀内 保健師堀内

最近は小中学校でがん教育がはじまりましたが、その親の世代などはがん教育を受けていないんです。

阿南 里恵 阿南里恵

そうですね。働く世代はがんのことをぜんぜん知らないと感じますし、だからこそ企業でがん教育をやるしかありません。

中村 保健師中村

がんについてもっと知ってもらいたいですし、婦人科検診の重要性も理解して当たり前に受けるようになって欲しいです。

長井 健保組合長井

大和証券グループの乳がん・子宮頸がん検診は34歳以下の女性社員が対象ですが、受診率は例年30%台です。

浅野 保健師浅野

この受診率についてどう感じますか?

阿南 里恵 阿南里恵

他の企業も30%台が多いですね。ただ、がん検診の重要性をしっかり感じれば行動に移せると思うので、がんの知識を身につけて受診につなげてください。

浅野 保健師浅野

阿南さんにとって、検診とは何ですか?

阿南 里恵 阿南里恵

「自分が望む未来のための通過点」です。夢に向かって歩むためには、資格やスキルアップも大切ですが、健康管理もその1つです。「どんな人生にするために今何ができるか」と考えたとき、がん検診は働く世代が今やるべきことの1つです。

後遺症と付きあいながら働く

中村 保健師中村

現在は経過観察も終えられていますが、後遺症についてはいかがでしょうか?

阿南 里恵 阿南里恵

「がんの治療が終わった=治った」という認識の方が大半なのですが、進行したがんの治療では後遺症が出ます。私も、足がむくむ「リンパ浮腫」という後遺症を抱えています。

中村 保健師中村

大和証券グループの医務室にも、がんに罹患された方からリンパ浮腫の治療について相談が寄せられることもあります。

阿南 里恵 阿南里恵

私のリンパ浮腫は疲労などで悪化してしまうので、自分で仕事量をコントロールしなければいけません。でも、がん患者さんのほとんどが、休んだ分これまで以上に働こうとします。ですが、後遺症や体力低下の影響で以前と同じように働けず、自分に自信を失って退職してしまう方が多いんです。治療中や経過観察中に転職活動をするのは難しいですし、検査や後遺症でたびたび休まざるを得ない場面でも転職直後だと休みも取りにくいので、同じ職場に勤め続けるのが望ましいと思います。「休んでもいいから仕事を辞めない、辞めさせない」ことが大切です。

大和証券グループの社員が
がんになったら

長井 健保組合長井

大和証券グループでは、2017年10月から「ガンばるサポート」というがん就労支援プランがはじまっています。

阿南 里恵 阿南里恵

それはとてもいいですね。

長井 健保組合長井

名医の案内、医療費の貸付などのサポートもあります。「時間単位年休」として年40時間まで1時間単位での年休取得もできます。

阿南 里恵 阿南里恵

放射線治療中は毎日数分の照射を受けるために通院していました。半休にするほどでもないという方にとっては、短時間の休みがとれるのはいいですね。

長井 健保組合長井

たとえば、阿南さんががんと診断されたときに大和証券グループの社員だったら、仕事を続けられたと思いますか?

阿南 里恵 阿南里恵

こういう制度があれば退職しないで続けられたかもしれないと思います。同時に、制度だけではなく職場の雰囲気も大切です。がんになっても仕事を続けられた人に聞くと、「周りの理解と協力」が理由として一番に出てくるんです。

中村 保健師中村

周りに言いやすい環境は大事ですね。

長井 健保組合長井

仕事とがん治療の両立に関する意識啓発にも会社として取り組んでいます。やはり、がんになったと言いやすい風土の醸成は必要ですよね。

阿南 里恵 阿南里恵

「何に困っているのか」を発信できる土壌があるといいですね。私も以前は、後遺症で仕事に支障が出ると「迷惑をかけた」と悩んで辞めて、がんの罹患歴を隠して転職するというのを繰り返してしまいました。今の会社では、後遺症を隠さずに面接を受けて採用に至り、仕事量についても適宜相談しながら働いています。

がんは家族にも大きな影響を与える【Web限定】

長井 健保組合長井

がんになってからの、家族との関わりについて教えていただけますか?

阿南 里恵 阿南里恵

手術後に5年間の経過観察で定期的に検査を受けたのですが、検査結果を聞く前日は「これで人生が終わるかもしれない」という恐怖に襲われ、必ず悪夢で目が覚めていました。そんな経過観察が終わった後、家族に「今まで支えてくれて、本当にありがとう」と伝えました。そうしたら、親も「この5年間、本当にしんどかった」と言っていて、家族も同じ思いだったんだなと改めて知りました。

浅野 保健師浅野

がんになると、家族にも大きな影響があるんですね。

阿南 里恵 阿南里恵

はい。私の地元の大阪の人は「病気になったら、なったときや!」と言いがちなのですが、本人はよくても周りの家族が巻き込まれてしまうんです。たとえば、幼い子どもがいる男性の奥さんががんになった場合、男性が育児と家事を一手に担うわけです。シングルマザーの方ががんになったとき、治療費・生活費の支払いや子どもの世話ができなくなって、両親に頼るケースもよくあります。がんになった後の自分と家族がどうなるかは中々イメージしにくいとは思いますが、がんになったら自分も家族も生活が大きく変わることを知って欲しいです。

「がんの後の人生」をどう生きるか【Web限定】

堀内 保健師堀内

女性にとっては、がんが妊娠・出産にどんな影響があるのかも気になります。

阿南 里恵 阿南里恵

子宮全摘出の手術を受けた20代前半はとにかく仕事をしたい時期だったので、妊娠・出産よりも後遺症や抗がん剤の副作用でキャリアに支障が出ることの方が大きな悩みでした。その後、20代後半で友人の結婚や出産が相次いで、「どうやって結婚したらいいんだろう?」という悩みが出てきました。子宮がないことを男性に打ち明けるタイミング、子どもを授かれない悩み、相手の親のことなどを考えると、恋愛を考えた相手に腰が引けてしまうのが正直なところです。

浅野 保健師浅野

阿南さんは、ご自身の20~30年後についてどう考えていますか?

阿南 里恵 阿南里恵

私は命の長さに対しての執着はなくて、「その日をどう生きるか」が人生の全てだと思っています。毎日それを繰り返して、20年~30年が経っているのが理想です。日々思い描いた夢に向かって歩み、生きたい人生を生きるためには、今できることをするのが大切です。がんも含めたすべての経験が私の人生にとって必要だったと感じているので、がんの罹患経験を後ろ向きに捉えずに、今やれることをしたいですね。

検診を受けていないあなたへ

堀内 保健師堀内

20代、30代でがんに罹患すると、その後の人生が長いですよね。仕事や妊娠・出産など、今後の人生の色々なタイミングで影響が出てくるからこそ、若い今からがん検診を受ける意味があります。

中村 保健師中村

がんが見つかったとしても、検診で早期発見できていれば治療の選択肢も広がりますし、残る後悔にも差が出てくると思います。

長井 健保組合長井

まずは予防のために定期的にがん検診を受けることと、気になることがあればすぐに病院に相談することは心がけたいですね。

阿南 里恵 阿南里恵

日本人は予防に対する意識が低いと感じています。がんに関しては体調が悪くなったときにはかなり進行しているので、「自覚症状がないうちに検診を受けなければいけない」と知って欲しいです。

浅野 保健師浅野

今日の阿南さんのお話から、がんは自分だけではなく周りの人にも色々な影響があると改めて実感しました。大切な人のためにも、がん検診を受けて欲しいです。

阿南 里恵 阿南里恵

まさに、それを伝えたかったんです。がんは、周りの人の人生にも大きな影響を与えます。「がんは自分1人の問題ではない」と心に留めて、これからの人生で関わる人のためにも、がん検診を受けて欲しいです。

阿南 里恵 あなみ りえ

阿南 里恵 あなみ りえ

1981年東大阪市生まれ。2002年に大手自動車メーカーに入社、2004年に不動産ベンチャーに転職。転職の1カ月後に子宮頸がんの告知を受けて、子宮を全摘出する手術を受ける。治療と5年間の経過観察を経て、2010年から自らの闘病体験を語る講演活動を開始して、子宮頸がんの予防・啓発活動を行う。2012年より日本対がん協会の広報を担当。2013年より、大和証券グループ本社も推進パートナーとして参加している「がん対策推進企業アクション」のアドバイザリーボードメンバーを務め、企業におけるがん検診受診率向上の推進に取り組む。